節税につながる「即時償却」と「特別償却」について、概要やメリット・デメリットをご紹介していきます。
また、即時償却が可能になる税制優遇の紹介や、利用条件なども解説します。

まずは減価償却からおさらい
「即時償却」と「特別償却」の意味を理解しやすくするために、
まずは「減価償却」の意味を理解しておきましょう。
「減価償却」とは、設備投資を行った大型機械などの耐用年数(寿命)に基づいて、
数年にわたって徐々に経費として計上していく仕組みのことです。
自家消費型太陽光発電の法定耐用年数は17年
たとえば「1,000万円」の資金で自家消費型太陽光発電に設備投資したとすると、
法定耐用年数の「17年間」で減価償却していくことになります。
この場合、1年で約「59万円」を経費として計上していく計算となります。(※定額法の場合)
導入のケースによっては耐用年数が変わる場合も
売電用の太陽光発電設備の法定耐用年数は17年とされており、
自家消費型太陽光発電でも同様に17年とされることもありますが、
「最終的にその設備で何を生産しているか」によって償却年数が変わる場合があります。
生産するための設備のひとつとして太陽光発電設備を稼働させているため、
太陽光発電設備が「附属製造設備」として認識されるからです。
自家消費型太陽光発電設備を導入検討中の企業様の中で、
自社がどこに該当するのか判断が難しいという場合には、
太陽光発電に詳しい税理士や会計士へ相談することをおすすめします。
即時償却の意味やメリット・デメリット
ここでは即時償却の意味やメリット・デメリットについて解説していきます。
即時償却とは?
即時償却とは、自家消費型太陽光発電などの設備投資を行った際、
設備投資を行った初年度に「100%」経費として計上することができる制度です。
たとえば1,000万円の自家消費型太陽光発電を設置した場合、
通常であれば耐用年数である17年で減価償却し、
(定額法の場合)1年に約「59万円」を経費として計上していく必要があります。
しかし即時償却の場合、初年度で「1,000万円」すべて経費にすることが可能となるのです。
即時償却を行うメリット
即時償却を行う一番のメリットは「節税効果」を早い段階で得ることができるという点です。
たとえば、利益が特別多くなりそうな年に設備投資を行い、即時償却を利用することで、
利益を圧縮して支払う税金を少なくする、といった活用方法が考えられます。
ただし、トータルで支払う税金の額は、減価償却と変わりません。
あくまでも「初年度に一括して経費にできる」というだけであることは忘れないようにしましょう。
即時償却により新たな設備投資も可能に
即時償却を行うことで、設備投資の翌年に支払う税金が軽減されますので、
その分の資金をまた別の設備投資などに回すことが可能となります。
即時償却をうまく活用することで、資金を効率よく循環させることができ、
企業の成長を後押ししてくれる場合もあるでしょう。

税制利用しない場合
- 税引き前当期利益
1,500万円 だった場合…
- 法人税は
525万円
1,500万円 × 法人税率35%
即時償却をした場合
- 太陽でんき®
導入費用
1,200万円を即時償却
初年度に一括損金として 計上して、利益を圧縮
- 税引き前当期利益
300万円
- 節税効果
420万円
(525万円-105万円)
- 法人税は
105万円
300万円 × 法人税率35%
即時償却を行うデメリット
即時償却を行うデメリットとしては、あくまでも経費として落とすタイミングを
初年度にまとめているだけなので、耐用年数トータルでの金銭的メリットが無いことです。
また、設備投資を行った費用を、初年度に100%経費として計上してしまうため、
翌年度以降は経費として計上することができません。
そのため、翌年度以降は節税効果が無いことに注意が必要です。
即時償却はその性質上、利益が多い年などを狙って実行しないと、
あまり効果を発揮しないというのもデメリットと言えるでしょう。
特別償却の意味やメリット・デメリット
ここでは特別償却の意味やメリット・デメリットについて解説していきます。
特別償却とは?
特別償却とは、自家消費型太陽光発電などの設備を導入した際、
通常の減価償却費にプラスして30%の償却が可能となる税制優遇のことです。
設備投資を行った初年度の経費を多めに計上することができるため、
翌年の税金を安くすることが可能となります。
たとえば1,000万円の自家消費型太陽光発電を設置した場合、
通常であれば耐用年数である17年で減価償却し、
(定額法の場合)1年に約「59万円」を経費として計上していく必要があります。
しかし特別償却の場合、59万円にプラスして、初年度に設備投資額の30%である「300万円」を加えた
「359万円」を経費として計上することが可能となるのです
初年度に100%の経費計上が可能な即時償却と比べると節税効果は薄いですが、
それでも設備投資を行った翌年に支払う税金を安く抑えることができます。
特別償却を行うメリット
特別償却を行うメリットは、即時償却の場合と同じく、
「設備投資を行った翌年の税金を抑えることができる」という点です。
特別償却で節税を行い、余った資金を別の投資などへ回すことで、
資金を効率よく運用することができます。
特別償却なら「1年間の繰り越し」が可能!
即時償却には無いメリットとして、特別償却は「1年間の繰り越し」が可能です。
たとえば、設備投資を行った初年度に特別償却を行ってしまうと赤字になってしまうようなケースのとき、
特別償却を翌年に繰り越すことができるのです。
即時償却では、設備投資を行うタイミングを利益が多い年に合わせる必要がありましたが、
特別償却は必ずしも利益の多い年に合わせる必要がなく、
設備投資を行うタイミングの自由度が高いと言えます。
特別償却を行うデメリット
繰り越しが可能な特別償却ですが、繰り越しを行う場合には、
税金の申告処理が少し複雑になるというデメリットがあります。
特別償却費を翌年に繰り越した場合、繰り越した金額は「特別償却不足額」という扱いになります。
この「特別償却不足額」は、法人税の申請を行うときの「別表」という用紙に記載する必要があります。
こちらの処理が複雑なため、場合によっては税理士に依頼することで
別途経費がかかってしまうことがあります。
即時償却と特別償却が可能になる優遇税制
ここでは、上記でご紹介した即時償却が可能になる「中小企業経営強化税制」と、
特別償却が可能になる「中小企業投資促進税制」の2つの制度についてご紹介していきます。
中小企業経営強化税制(即時償却)
中小企業経営強化税制は、100%の即時償却が可能となる税制優遇で、
「中小企業等経営強化法」の認定を受けた事業者であれば優遇措置を受けることが可能です。
具体的な内容としては、生産性などの向上を目的とした設備を新規導入した場合に、
- 即時償却又は
- 取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円超1億
円以下の法人は7%)
(参考資料:中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和元年度版)」 p09より引用)
のどちらかの税制優遇措置が選択適用できるというものです。
なお、中小企業経営強化税制の対象となる設備には、
A類型(生産性向上設備)とB類型(収益強化設備)が存在しており、
自家消費型太陽光発電はいずれにも該当し、そのうち「機械装置」に当たります。
A類型(生産性向上設備)
A類型(生産性向上設備)についてはエネルギー効率等が旧モデルとの比較で年平均1%以上向上している設備とされています。
- 機械装置(160万円以上/10年以内)
- 測定工具及び検査工具(30万円以上/5年以内)
- 器具備品(30万円以上/6年以内)
- 建物附属設備(60万円以上/14年以内)
- ソフトウエア(70万円以上/5年以内)※情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの
(参考資料:中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和元年度版)」 p09より引用)
※「○年以内」となっている箇所は、その指定年数以内に販売開始された設備である必要があります。
B類型(収益強化設備)
B類型(収益強化設備)については年平均の投資利益率が5%以上見込まれる設備とされています。
- 機械装置(160万円以上)
- 工具(30万円以上)
- 器具備品(30万円以上)
- 建物附属設備(60万円以上)
- ソフトウエア(70万円以上)
(参考資料:中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和元年度版)」 p09より引用)
なお、中小企業経営強化税制の適用期限が2年延長されたことにより、
2021年3月末まで中小企業経営強化税制による即時償却または税額控除を利用できるようになりました。
中小企業経営強化税制について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
中小企業投資促進税制(特別償却)
中小企業投資促進税制は、「特別償却」もしくは「税額控除」のうち、
どちらか一つの優遇措置を選ぶことができる制度です。
具体的には、
一定の機械装置等の対象設備を取得や製作等した場合に、
取得価額の30%の特別償却又は
7%の税額控除
が選択適用(税額控除は資本金3,000万円以下の法人、個人事業主のみ)できるもの
(参考資料:中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和元年度版)」 p18より引用)
のどちらかの税制優遇措置を受けることができます。
中小企業投資促進税制の対象設備は以下のものが対象となり、
自家消費型太陽光発電も対象となります。
機械および装置(1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの)
測定工具および検査工具(1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの
(事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のものを含む))一定のソフトウェア(一のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの
(事業年度の取得価額の合計額が70万円以上のものを含む))普通貨物自動車(車両総重量3.5t以上(注2))
内航船舶(全て(注3))
(注1)中古品、貸付の用に供する設備は対象外です。
(注2)普通貨物自動車は、道路運送車両法に規定する普通自動車で、貨物の運送の用に供するものが対象です。
(注3)取得価額の75%が対象となります。
(参考資料:中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和元年度版)」 p18より引用)
なお、中小企業投資促進税制の適用期限が2年延長されたことにより、
2021年3月末まで、中小企業投資促進税制による特別償却または税額控除を利用できるようになりました。
「中小企業投資促進税制」について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
まとめ
この記事では即時償却と特別償却という2つの税制優遇について、
概要やメリット・デメリットなどを解説してきました。
それぞれの特徴をまとめてみると、
即時償却 (中小企業経営強化税制) |
特別償却 (中小企業投資促進税制) |
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となっています。
即時償却や特別償却は、自家消費型太陽光発電などの高額な設備投資をする場合に有効ですが、
償却を行うタイミングによっては赤字になってしまうこともあるので、
運用は時期を見ながら適切に行うようにしましょう。

法人税の計算などは企業ごとによって異なるため、詳しくは税理士にご相談ください。
中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制の適用には条件があります。