排出権取引とは?仕組みやメリット・問題点を解説!| 太陽でんき®

  • 最終更新日:2020年10月7日

排出権取引制度をご存じですか?
「キャップ・アンド・トレード」とも呼ばれる排出権取引制度は、CO2を排出する「排出枠」を設定し、その排出枠を取引する制度で、従来の自国・自社努力のみのCO2削減政策よりも効率が良いと一般的にはいわれています。
この記事では、排出権取引制度について、

  • 排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の概要
  • 排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の仕組みと流れ
  • 排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)のメリット
  • 排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の問題点

などについて、分かりやすくご紹介していきます。

排出権取引とは?

「カーボンプライシング(Carbon Pricing)」の施策として、排出権取引と、CO2(温室効果ガス)排出量に応じて課税する炭素税があります。なお、この記事では、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)に絞って解説していきます。
排出権取引は、個別の企業や国に対して温室効果ガスの排出枠(排出を許される量、キャップ)を割り当てるもので、各企業・国はその排出枠を超えないように、排出するCO2の量を抑える必要があります。
そして、割り当てられた排出量を超えそうな企業や事業所は、別の企業・事業所から排出枠の取引(トレード)を行えます。
もともとはアメリカの発電所において発生する二酸化硫黄を削減する際に用いられた制度で、その際に成果を上げたことで二酸化炭素の排出においても用いられるようになりました。

背景は地球温暖化の防止

排出権取引が行われている背景としては、地球温暖化の対策・防止があります。排出権取引があることにより、企業は自社努力で二酸化炭素排出量の削減を行うか、排出枠を購入するかという選択を行えるようになります。
こうした選択肢の増加によって、自社努力によるCO2の削減が難しい企業においても、貢献しやすくなるといった効果が期待されています。

排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の仕組みと流れ

ここでは、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の仕組みについて、詳しく解説していきます。

STEP1:CO2削減量の決定と排出枠の発行

第一のステップとして、基準となる年からどの程度CO2を削減するのかという「削減量」を決めます。
たとえば、2020年の排出枠を決める場合、「2015年を基準としてCO2を20%削減する」という目標を立てた場合、その国や部門全体には2015年のCO2排出量の80%分が「排出枠」として割り当てられます。

STEP2:各企業への排出枠の分配

国・部門全体の排出枠が発行されたあとは、さらにその下の企業や事業所などへ排出枠を分配していきます。
排出枠の分配方法は、大きく分けて「グランドファザリング方式」、「ベンチマーク方式」、「オークション方式」の3つが存在しています。

  • グランドファザリング方式

グランドファザリング方式は、企業や事業所における過去のCO2排出量を基準として、無償で排出枠を分配する方法です。

  • ベンチマーク方式

ベンチマーク方式は、その企業・事業所の生産物や技術に着目し決定される「理想的な標準の排出量」をもとに、排出枠を分配する方法です。

  • オークション方式

オークション方式は、各企業・事業所が排出枠をオークション(入札)によって購入する方法です。グランドファザリング方式やベンチマーク方式が無償で排出枠を分配するのに対し、オークション方式だけが有償での分配です。
(参考資料:環境省「排出枠の設定方法(pdf)」)

STEP3:排出枠の取引

排出枠の分配が完了すると、各企業や事業所は、割り当てられた排出枠内に収まるように努めます。

しかし、割り当てられた排出枠内にCO2排出量を収めることができる企業ばかりではありません。なかには当然、分配された排出枠を超えてしまう企業も出てきます。
ここからが排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の本領発揮となります。割り当てられた二酸化炭素(温室効果ガス)の排出枠を超えてしまいそうな企業は、二酸化炭素を十分に削減して排出枠に余裕がある企業から、排出枠を購入することが可能です。このとき、排出枠を超えてしまいそうな企業は「排出枠の購入」の他にも、「自社努力によるCO2削減」という道も残されています。
企業が「排出枠の購入」と「自社努力の削減」どちらを選ぶかは、その企業判断基準によって異なります。

STEP4:排出枠・排出量の確認(マッチング)

最後のステップとして、各企業・事業所の排出枠と排出量が合致しているかどうかの確認が行われます。この確認作業は「マッチング」と呼ばれます。

このマッチングにおいて、定められた排出枠内に二酸化炭素(温室効果ガス)の排出量を収めている企業・事業所は、排出権取引のルールを守ったことになります。
そして、配布された排出枠をオーバーしてしまった企業については、罰則が科せられます。
以上が、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の仕組みと流れです。

排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)のメリット

1排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)のメリットには、主に以下の3つが存在しています。

達成される目標が明確

地球温暖化対策という視点からみたときの、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)のメリットは、達成される目標が明確という点です。

どういうことかというと、上記の仕組みと流れでも解説した通り、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)では削減目標として設定した排出量に対し、排出枠を設けます。
そのため、各企業が分配された排出枠を超えることなく、ルール通りに履行する限り、最初に設定した二酸化炭素(温室効果ガス)の削減目標は達成することになります。

たとえば基準年に対して「90%」という削減目標をもとに排出枠が分配された場合、割り当てられたすべての企業・事業所が排出枠内に排出量を収めれば、
基準年に対する「90%」というCO2削減目標は最低でもクリアできます。

温室効果ガスの削減費用を最小化できる

排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)は、温室効果ガスの削減費用を最小化するというメリットもあります。排出枠をもとに二酸化炭素の削減を行う企業は、

  • 自社努力で削減する
  • 排出枠を他企業から購入する

という2つの選択肢が用意されています。
企業の業種や形態によって事情が異なるため、自社努力による削減のほうが低コストで済む場合もありますし、その反対のケースもあるでしょう。
このように、各企業においてより低コストとなる削減方法を選択できるので、全体としての温室効果ガス削減費用も最小化することが可能となります。

企業側のCO2削減手段の増加

上記の話と重なる部分がありますが、企業にとってもCO2を削減する手段が増えます。
排出権取引は、環境政策のなかでは環境税などと同じ経済的手法に属しています。
この経済的手法は、政府が二酸化炭素の排出量を直接規制する政策手法と比較すると、削減を行う側の柔軟性が高く、より効率的であるといわれています。

排出権取引の問題点

排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)には、しばしば問題点も指摘されています。ここでは、排出権取引制度の問題点についてみていきましょう。

カーボン・リーケージの問題(CO2漏出問題)

カーボン・リーケージとは、国際競争が激しい産業の企業が、排出権取引制度などの温室効果ガス排出規制が緩い国へ脱出・移転しまうことを指します。

このカーボン・リーケージが実際に行われてしまうと、かえって地球全体のCO2排出量が増えてしまう場合もあるのです。
EUでは既に2009年にカーボン・リーケージにおける対策を話し合っており、カーボン・リーケージのリスクが高い164の産業部門及び小部門の企業については、他の産業部門よりも温室効果ガスの排出枠を多めに配分することが決定されています。
(参考資料:新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO海外レポート 」)

国や地域ごとに異なった環境政策を取っている限りは、こうしたカーボン・リーケージなどのリスクは無くならないでしょう。

多くの業界が「原単位」目標を主張している

日本国内においては、多くの業界が「総量規制」ではなく「原単位」でのCO2削減目標を主張していることも問題の1つとされています。

「原単位」とは、簡単にいうと総生産量ではなく、1つあたりの生産品に対するCO2削減目標のことを指します。

ここで問題となるのは、「原単位(製品1つあたり)」でCO2を削減したとしても、大量に生産すれば総量としてのCO2排出量は多くなってしまうということです。
現在、経団連が定める「自主行動計画」では、原単位での削減目標も認めているので、企業は「総量規制」と「原単位」どちらでも選べるようになっています。

つまり、「原単位」を選ぶ企業や業界が増えると、排出権取引の「二酸化炭素排出量を減らす」という本来の目的が達成されなくなってしまう可能性があるのです。

排出枠の設定が困難

排出枠の設定が困難であることも、排出権取引の問題点としてあります。

排出権取引の排出枠を厳しく設定した場合、各国・各企業は二酸化炭素の削減努力に苦労することになり、また排出量を下回る国・企業が減少するため余剰排出枠の費用も上がります(二酸化炭素の排出にかかる費用が高騰する)。

反対に排出枠の設定を甘くした場合、それなりの自社努力で削減目標をクリアする企業や国が続出し、売りに出される排出枠の数が多くなって値下がりします。
これにより、まったくCO2削減の自社努力をせず、ただ排出枠だけ購入したほうが安上がりといった事態も発生してしまいます。
こういったことから、適切な排出枠の設定は非常に難しい問題になっているのです。

排出権取引の実施国で課題が浮き彫りに

上記で挙げたような問題は、既に排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)を実施している国々によって明らかになってきた問題でもあります。
次の項目では、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)を実際に導入している世界の国々の事例を見ていきましょう。

世界各国の排出権取引の導入事例

ここでは、実際に排出権取引制度を導入している世界の国々の事例を紹介していきます。

EU(欧州連合)

EU(欧州連合)では、2005年からこれまで3期間にわたり、EU域内で排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)を開始しました。
ここで排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)の対象となったのは、EU域内である程度の規模を超えて二酸化炭素を排出している工場や事業所、施設です。
EU(欧州連合)では、以下の期間に排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)を実施しました。

  • 第1期:2005年~2007年
  • 第2期:2008年~2012年
  • 第3期:2013年~2020年
  • 第4期:2021年~

排出権取引制度をいち早く実行してきたEUですが、経済危機の影響や制度そのものの不備などから、目標とする削減量に対し排出枠が余ってしまうなどの問題が発生しました。
その結果、排出権取引制度による十分な温室効果ガス削減効果を得られなかったとして批判を浴びる結果となりました。
しかしながら、現在は少しずつではありますが、改善に向けて進んでいる状況です。
(参考記事:WWFジャパン「温室効果ガス排出量取引」)

アメリカ(一部の州)

世界最大のCO2排出国であるアメリカでは、2007~2010年にかけてアメリカ全土における排出権取引制度の導入が検討・議論されましたが、結局導入は見送られました。

しかし、州単位で見てみると、排出権取引制度を導入している州はいくつか存在しています。たとえばカリフォルニア州では、2012年からEU(欧州連合)に近い形で排出権取引制度が導入されています。
また、それよりも古い2009年には、アメリカ東部の7州が発電所のCO2排出量削減を目的とした排出権取引制度「RGGI(Regional Greenhouse Gas Initiative)」を発足しています。
このRGGIへ参加している州は、2017年の時点では9州まで増えています。
(参考記事:WWFジャパン「温室効果ガス排出量取引」)

ニュージーランド

ニュージーランドにおいては、2008年に森林と農業部門を対象とした独自の排出権取引制度が開始されています。
ニュージーランド政府は、排出する二酸化炭素の限度量を設ける「炭素予算」を2030年に向けて定めているのですが、その「炭素予算」を達成するためにも、排出権取引制度の効果的な活用が期待されています。
(参考記事:WWFジャパン「温室効果ガス排出量取引」)

中国

中国では、早ければ2020年にも中国全土を対象とした排出権取引制度を開始することを、2017年12月に発表しています。
ここで対象となるのは主に火力発電所で、年間CO2排出量が2万6000トン以上の施設(約1,700カ所)が対象となります。
(参考資料:日本経済新聞「中国、20年にも排出権取引制度 自家火力も対象、改善急務」)

韓国

韓国では2015年から排出権取引制度が開始され、第1期(2015~2017年)では総排出量の約7割をカバーしています。
(参考記事:WWFジャパン「温室効果ガス排出量取引」)

温室効果ガスの削減に向けて求められる政策

紹介してきた排出権取引制度は、CO2排出量を「排出枠」で管理し、その排出枠を売買可能にすることで、より効率的に温室効果ガス削減を達成するというものでした。

この制度自体はさまざまな国で導入されており一定の成果を挙げているのですが、日本においては導入が進んでおらず、また「原単位」ごとの削減を主張する業界が多いなどの問題もあります。
こうしたなか、WWF(世界自然保護基金)では、脱炭素社会に向けた「ポリシーミックス」を提言しています。

WWFが提言する「ポリシーミックス」とは?

WWFが提言する「ポリシーミックス」は、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)だけではなく、その他のさまざまな政策と組み合わせることで、より脱炭素社会に向けて前進していこうというものです。
ここで言うその他の政策というのは、

  • CO2排出量に応じて課税する「炭素税」
  • 中小事業者がエネルギー効率に優れた設備を導入するなどして削減したCO2排出量を他社へ売却する制度

などが当てはまります。 (参考資料:WWFジャパン「温室効果ガス排出権取引/入門編」)
日本でも「グリーン電力証書」、「J-クレジット」、「非化石証書」といったCO2を排出しない電気を取引する制度はありますが、政府が主体となってさらに進める必要があるでしょう。
「グリーン電力証書」、「J-クレジット」、「非化石証書」について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

グリーン電力証書・J-クレジット・非化石証書の特徴や違いとは?

まとめ

この記事では、排出権取引制度(キャップ・アンド・トレード)について、仕組みやメリット、問題点を紹介してきました。

国や企業・施設などに対し「排出枠(キャップ)」を設け、その排出枠を「取引(トレード)」する排出権取引制度は、目標とするCO2削減量をもとに排出枠が設定されるため、ルール通りに行われればCO2排出量を減らすことにつながる仕組みとなっています。
しかしながら、排出枠の価格が暴落・高騰してしまうことから、排出枠の締め付けのレベルを決めるのが難しく、課題となっています。

CO2削減のために日本においては、既に排出権取引制度を導入しているEU(欧州連合)やアメリカのカリフォルニア州の例を参考に、「炭素税」などと組み合わせた「ポリシーミックス」による政策推進が、世界から求められています。