SBT(企業版2℃目標)イニシアチブとは? 設立背景や企業が加盟するメリット

  • 最終更新日:2019年10月30日

SBT(Science-based Targets)について、名前を聞く機会も増えたかと思いますが、
その内容について詳しくご存知でしょうか。
日本では「企業版2℃目標」と表記されることも多いです。

この記事では、SBTイニシアチブの設立背景や企業が加盟するメリット、
加盟手順・条件などを詳しく解説していきます。

SBTイニシアチブとは?

SBTとは、「Science-based Targets」の略称で、
日本語に訳すと「科学的根拠に基づく目標」という意味になります。

SBTイニシアチブとは、「世界の平均気温の上昇を2度未満に抑える」という目標達成のために、
企業に対して科学的な知見に基づいた二酸化炭素排出量の削減目標を設定するよう求めるイニシアチブです。

SBTイニシアチブは、2014年9月にWWF、CDP、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、
WRI(世界資源研究所)によって、共同で設立されました。

次の項目では、SBTイニシアチブが設立された背景を解説していきます。

SBTイニシアチブが設立された背景

SBTイニシアチブが設立された背景

SBTイニシアチブが設立された2014年9月は、世界的に重要な環境会議である
「第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」が開催される約1年前でした。

このCOP21は、現在も続く温室効果ガスの削減を目指す「パリ協定」が採択されたことでも有名です。

実は、SBTイニシアチブの誕生や「パリ協定」の採択には、
2014年9月22日~28日まで開催されていた「Climate Week NYC」という
国際環境イベントが大きな役割を果たしています。

「Climate Week NYC」とは?

2004年にイギリスで設立された国際環境NGO「The Climate Group」が
2009年に開催を始めたのが「Climate Week NYC(ニューヨーク市気候週間)」というイベントです。

環境問題に対して本気で取り組んでいるNGOや企業が集結し、
国家政府や国連などの国際機関に対して環境や気候変動などの問題に対する行動を求めると同時に、
国際的な環境保護のムーブメントを発生させることを目標にしています。

2014年の「Climate Week NYC」で決まったこと

2014年に開催された「Climate Week NYC」には、世界有数の環境NGOが勢揃いしただけでなく、
Appleのティム・クックCEOやヴァージン・グループのリチャード・ブランソン会長などの
ビジネス界の大物、当時の国連事務総長、さらにはアメリカ国務長官も参加しました。

こうした国際的な要人が一同に会する中で誕生したのが、「We Mean Business」という企業連合体です。

「We Mean Business」という英語には「私たちは真剣だ」という意味があり、
ビジネス界も地球温暖化などの環境問題に対し真剣に取り組んでいる、という姿勢を表しています。

この「We Mean Business」のコミットメント(約束)のひとつに掲げられている
「科学的根拠に基づく目標設定の採用」を元にして、「SBTイニシアチブ」が設立されました。

このように、「Climate Week NYC」で誕生した「We Mean Business」などの大きなムーブメントが、
2015年に開催されたCOP21に影響を与え、「パリ協定」の採択に至ったと考えるべきでしょう。

SBTイニシアチブへ加盟するメリット

企業がSBTイニシアチブに加盟するメリットには、主に以下の4点があります。

イノベーションを後押し

SBTイニシアチブへの加盟により、二酸化炭素などの温室効果ガスの
排出量ゼロを目指す「脱炭素経営」にシフトすることができます。

いち早く脱炭素経営に乗り出すことで、これから国際的に「脱炭素」社会へ向かっていく中で、
新たなイノベーションを生む機会が増えるだけでなく、主導権を握れる可能性があります

企業の評判や信頼を高める

最近の社会の風潮として、企業が環境に対して配慮しているかどうかが重視されるようになってきました。
こうした中、SBTイニシアチブへ加盟して「脱炭素経営」に乗り出すことで、
企業の社会的な評判や、取引先からの信頼を高める効果が期待できます。

今後の温暖化政策において先手をとれる

SBTイニシアチブといった先進的な取り組みを実施している企業は、
日本においてはまだまだ少ないのが現状です。
逆を言えば、今の段階でSBTイニシアチブの承認を受けておくことで、
将来的に政府の温暖化政策などに対して影響を与えることができる可能性もあります。

再エネ電気の自家消費でコスト削減につながる

SBTイニシアチブに加盟し、二酸化炭素の排出量を削減する方法として有効なのが、
「太陽でんき®」のような、太陽光発電などの再生可能エネルギー由来の電力の自家消費です。

二酸化炭素を排出しない太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いた発電設備を導入し、
発電した電力を自家消費することで、自社で使用する電力コストを削減することができます。

また、エネルギーを自社で発電できるようになれば、
電力会社から購入する電気料金の価格変動にも左右されにくくなります。

SBTイニシアチブへの加盟手順

SBTイニシアチブへの加盟手順

SBTイニシアチブへ加盟するためには、以下のステップがあります。

①コミットメントレターを提出

最初に、組織概要や連絡先などを「コミットメントレター」に記載してSBTイニシアチブ事務局へ提出します。
この「コミットメントレター」の提出により、SBTイニシアチブに参加の意思を表明したことになります。

②24ヶ月以内に目標を設定

「コミットメントレター」の提出から24ヶ月以内に、
SBTの基準に基づいた目標設定を行い、SBTイニシアチブ事務局に提出します。
目標設定は、次の項目で紹介する5つの加盟条件を満たす必要があります。

③SBTイニシアチブ事務局による審査

目標の提出後、SBTイニシアチブ事務局による審査が行われます。
ここで加盟基準を満たしていない場合は、修正が求められます。

④SBTイニシアチブへの加盟完了

SBTイニシアチブ事務局による審査を通ると、SBTイニシアチブへの加盟が正式に認められたことになります。
また、設定した目標が公表され、SBTのロゴなどが使用できるようになります。

SBTイニシアチブへの加盟条件

SBTイニシアチブへの加盟条件には、大きく分けて以下の5つが存在します。

範囲(バウンダリ)

子会社を含む企業全体のScope1および2について、すべての温室効果ガスが対象となります。
(※Scopeについては後述します)

基準年・目標年

基準年に関しては、データが存在する最新年が推奨されています。
なお、未来の年を基準年に設定することは認められていません。
目標年は公式提出時点から「最低5年、最長15年以内」と定められています。

削減水準

最低でも「世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑える」という
SBTイニシアチブの目標に則った削減水準を設定しなければなりません。
さらに、1.5℃未満に抑えることを目標とした削減水準が推奨されています。

具体的には、SBTイニシアチブ事務局が認定する7つの削減手法や、
4つの排出シナリオの組み合わせにより目標を設定します。

Scope3(企業のバリューチェーン)

Scope3排出量がScope1+2+3排出量合計の40%以上の場合に、Scope3における目標を設定します。
その際、Scope3排出量全体の2/3をカバーし、かつ以下のいずれかを満たした目標を設定する必要があります。

1. 1つ以上の排出削減目標を設定する。
2. サプライヤー・エンゲージメント目標を設定する。

Scope3の目標は「野心的」であることが求められます。
「野心的」であることを示すためには、どのように排出削減に取り組むかを示し、
それが現状の最大限の取り組みであるということを明示する必要があります。

Scope(スコープ)とは?

事業者自らの排出だけでなく、原料調達・製造・物流・販売・廃棄など、
事業活動に関係するあらゆる排出量を合計した排出量を「サプライチェーン排出量」と呼びます。
このサプライチェーン排出量の算出にあたり、
Scope(スコープ)」という区分で排出原因が分けられています。

区分 内容
Scope1 燃料の燃焼、工業プロセス等、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope2 他者から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 その他間接排出(算定事業者の活動に関連する他社の排出)※15のカテゴリに分類

報告

企業全体の温室効果ガスの排出状況を、毎年開示する必要があります。

SBTイニシアチブが推奨する目標設定手法

SBTイニシアチブが推奨する目標設定手法

SBTイニシアチブに加盟するためには、温室効果ガスの削減目標の設定が不可欠ですが、
どうすれば良いのか悩む必要はありません。SBTイニシアチブでは、目標設定のための手法として、
SBTイニシアチブ自身が開発した「SDA(セクター別脱炭素化アプローチ)」を推奨しています。

「SDA(セクター別脱炭素化アプローチ)」は、業種ごとに二酸化炭素の排出削減目標が定められており、
それを基準として自社の削減目標を設定していく方法です。

さらに、SBTイニシアチブでは、SDAによる目標設定を支援するために、
簡易設計ツールなども公開しています。
SBTイニシアチブへ加盟するための目標設定を行う場合は活用してみると良いでしょう。

SDA以外の手法

SBTイニシアチブでは、SDA以外の手法による目標設定も認めています。以下は、その一例です。

  • 1. 3% Solution:WWF、CDP、マッキンゼー、Point380
  • 2. CSI:BT
  • 3. GEVA
  • 4. C-FACT:Autodesk
  • 5. Mars Method
  • 6. Context-based carbon metric:CSO
  • 7. Absolute Contraction

SBTの目標設定方法論
(出所)CDP事務局「サプライヤー連携の動向と重要性」

SBTイニシアチブへ加盟している日本企業一覧

2019年6月現在、SBTイニシアチブへ加盟している日本企業は以下の通りです。
※カッコ内は承認取得日

  • 1. ソニー(2015年10月)
  • 2. 第一三共(2016年9月)
  • 3. 川崎汽船(2017年2月)
  • 4. コニカミノルタ(2017年2月)
  • 5. キリンホールディングス(2017年3月)
  • 6. 小松製作所(2017年4月)
  • 7. リコー(2017年7月)
  • 8. ナブテスコ(2017年7月)
  • 9. 戸田建設(2017年8月)
  • 10. 富士通(2017年8月)
  • 11. 電通(2017年8月)
  • 12. パナソニック(2017年10月)
  • 13. 富士フイルムホールディングス(2017年11月)
  • 14. LIXILグループ(2017年11月)
  • 15. 丸井グループ(2018年3月)
  • 16. 積水ハウス(2018年4月)
  • 17. ユニ・チャーム(2018年6月)
  • 18. サントリー食品インターナショナル(2018年6月)
  • 19. サントリーホールディングス(2018年6月)
  • 20. 日本郵船(2018年6月)
  • 21. 積水化学工業(2018年7月)
  • 22. 大日本印刷(2018年7月)
  • 23. ブラザー工業(2018年7月)
  • 24. 大和ハウス工業(2018年8月)
  • 25. 住友林業(2018年8月)
  • 26. アシックス(2018年8月)
  • 27. アスクル(2018年8月)
  • 28. アサヒグループホールディングス(2018年9月)
  • 29. 野村総合研究所(2018年9月)
  • 30. 住友化学(2018年10月)
  • 31. アステラス製薬(2018年11月)
  • 32. 日本電気(2018年11月)
  • 33. セイコーエプソン(2018年11月)
  • 34. YKK AP(2019年1月)
  • 35. イオン(2019年1月)
  • 36. 大成建設(2019年2月)
  • 37. 大東建託(2019年2月)
  • 38. 凸版印刷(2019年2月)
  • 39. 日本たばこ産業(2019年2月)
  • 40. エーザイ(2019年5月)
  • 41. 日立建機(2019年5月)
  • 42. 三菱地所(2019年5月)

最新の加盟状況は、公式WEBサイトにてご確認いただけます。(英語)

まとめ

SBTイニシアチブは、パリ協定で定められた温室効果ガスの削減目標の実現や、
それをきっかけにした「脱炭素化」といった世界の流れに対して、
企業が行える有効なアプローチのひとつと言えるでしょう。

今後も企業価値を高め、環境面においてもアドバンテージをとっていくために、
今のタイミングでSBTイニシアチブに加盟しておくことには大きな意味があります。